キョーコは自転車を押しながら夕方の坂道を博士の別荘に向かってゆっくり歩いていた。茜色に染まった空を見上げた時、後ろからガスタービンエンジンの音が急速に近づいてきた。
「ナンブのお嬢さん、乗って行きませんか?」

後ろ姿でわかるのはナントカっていう科学忍法を使ったのだろうか。
「私をナンパするのは10年早いと思うわ。」
でもジョーにはその言葉が聞こえなかったらしい。
あっという間にキョーコを追い越すとその先で車を止めた彼はドアを開け放った。

「自転車はどうするのよ。」
「そこへ置いておきゃいいさ。」

言い出したら聞かない人だ。
キョーコは自転車を道路の脇へ停めると助手席のシートへと身体を滑り込ませた。
「まったく素直じゃねぇな。」
「あなたに言われたくないわね。」
「ちぇ。」

「ところで何の用事だい?」
「ところで何の用事なの?」

二人同時に口を開いた。
「くくっ・・。」
そしてまた二人同時に笑う。

「珍しくパパから電話があったの。面白い本が手に入ったから読みに来なさいって。ジョーは?」
「オレは・・ん?めずらしいな。玄関前で博士がお出迎えだ。」
ジョーが答える前に車は別荘の前に着いた。
そこには南部博士が待っていたのだ。

 メタリックブルーの車から「二人が一緒に」降りて来たことにそう驚く様子もなく博士は微笑んで二人を迎えた。
「やぁ、キョーコ。君からの宅急便が今朝届いていたよ。」
「パパ・・。それでジョーを・・?」
義父娘の会話がイマイチ”見えない”ジョーはちょっと不機嫌だ。

「で、博士。オレに急用ってなんですか。また護衛ですか?」
「いや。今日中に何とかしないとと思ってね。さ、来たまえ。」
キョーコとは違ってジョーに向かっては少し命令口調になる博士だ。
博士に従ってジョーはさっさと別荘の中へ入っていった。

「パパぁ・・。私はいいでしょう?」
キョーコはまだ玄関にいる。
博士はキョーコの方を振り返った。
「なぜかね、キョーコ。直接(じか)の方が良いと思うがな。」

「くそう。オレだけ話が見えてねぇよ。」
「すぐにわかるさ、ジョー。そんなに焦ることはない。」


≡≡≡ヘ(* ゜-)ノ ≡≡≡ヘ(*゜∇゜)ノ ε=ε=ε=(┌  ̄_)┘


 書斎で博士は二人の前にキョーコから届いた宅急便の梱包用紙袋を置いた。
それはすでに開封されていて中にはピンク色のリボンがかかった可愛い箱が2つ入っている。
「さ、キョーコ。頼むぞ。」
「パパ・・?」
博士はネクタイを少し緩めながら言った。
「キョーコ、この中に入っている2つの包みのうち、どちらが私のでどちらがジョーのかね?」
「あ・・(しまった)」
「君には中味が見えているだろうが、私にはわからなくてね。どちらが私宛ての義理チョコかね?」
「パパ、そんな義理チョコだなんて・・(やだ、パパだって見えているんじゃないの?)」

博士は袋に入っていた手紙を取り出して読んだ。
『パパへ。バレンタインデーなので手作りチョコを贈ります。2つあるうちの1つはパパので、1つはジョーのです。14日になんちゃってスクランブルでジョーを呼び出して渡してくださいね。』

 「なんだよ。おめぇが呼び出したのかよ。(本を読みに来たなんてウソっぱちだったな)」
ジョーがキョーコをにらむ。
「だって、14日に他の子のパーティーに行こうと思っていたでしょ?」
キョーコがふくれっ面をする。
「けっ。だいたいバレンタインデーなんて何が面白いのかねぇ?」
ジョーは腕組みをしてプイと横を向く。
 キョーコは、ジョーのその言葉を受けると甘えた声で博士に向きなおった。
「パパぁ~。ジョーは私のチョコがいらないみたい。パパにぜ~~んぶあげるぅ。」
「そうかね。義理も本命も私に?!」
南部博士の片方の眉が上がった。
キョーコが深くうなずく。
「ちょ、ちょ、ちょっと待った~~ぁ!!いらねぇとは言ってないぜ、キョーコ!」
「ジョー、あまりあわてるとそっちへ義理チョコが行くことになるよ。さ、キョーコ。ゆっくり透視しなさい。」
キョーコは宅急便の紙袋を覗き込むとすぐに一つ取り出して博士に渡した。
「はい、パパの分。研究の合間につまめるように一口サイズになっているからね。」
「それから、ジョー・・。」
「ん・・。」


「------------------」
「------------------」     


「ぅおっほぉん!」

南部博士の咳払いでジョーとキョーコは我に帰った。
「私の前でよくそんなに長い間見つめ合いができるものだ。」

「じゃ、博士。オレもう行きます。」
「ジョー、それを見せにスナックジュンへ行くならもう少し待って。」
と、キョーコが引きとめた。
「へっ?」
「あっちこそ、二人きりだもん。いま・・」

「なに?!いかん!それは大変だっ!!」
叫んだのは博士だった。
しかしキョーコは笑って応えた。
「大丈夫よ、パパ。ムコウはケンだもん。何事も起きないってば。」
くっくっくっとジョーが声を殺して笑う。

「キョーコ・・。」
「なぁに?パパ。」
「ついでと言っては何だが、甚平とリュウはどうしているかね?」
キョーコは珍しく少し焦った様子で答えた。
「え?あ・・あの二人は一緒に・・その、けっ・・いえ、遊園地に。そう遊園地で遊んでいます。」
「本当かね。」
博士の眉が片方だけ上がる。
「ごめんなさい。競馬場です。」
「そんな事だろうと思った。」
「パパ、叱らないでやって。あの二人もあれで気をきかせたつもりなのよ。」

「キョーコ、そろそろいいか?」
ジョーはケンに早くチョコを見せたくて仕方ないらしい。
「そうね。あ、パパ。倉庫に置いてあるサイクルキャリアを借りて行っていいでしょう?」
「うむ。だがそんなものをG-2号機につけてどうするんだね?」
「ありがとう。パパ。またね!」

ジョーとキョーコは博士の言葉が終わるか終らないうちに書斎を出て行ってしまった。
「ジョーはともかく、キョーコまで行ってしまうとは・・。」

 一抹の寂しさを覚えながら博士はチョコレートについてきた手紙の続きを読み返した。
『・・そしてジョーには一応、本命チョコだと言って渡してね。でも私、告白はしていません。それをするのは地球に平和が訪れてからです。ジョーも私の気持ちを知っているとは思いますが、いまはまだ知らないふりをしています。彼もああ見えて現在(いま)の任務がどれだけ重要か充分わかっているはずよ。普段は言えないけど、ジョーも私もパパに命を助けていただいたこと、本当に感謝しています。ではまた。パパの娘、響子より』

南部博士の瞳に光るものがあった。
そしてギャラクターの野望を必ず阻止してみせるとチョコレートを頬張りながら改めて誓うのだった。

(おわり)




初掲載はILoveGeorgeAsakura (2011.02.14.)

ツイッターの「恋愛お題ったー」より
『「夕方の坂道」で登場人物が「誓う」、「瞳」という単語を使ったお話を考えて下さい。』
というお題に沿って書いてみました。

本来はツイッターの文字制限(140字)以内で書くのですが、書いているうちにバレンタインデーのジョーとキョーコを書きたくなってしまいました<(_ _)>
拙作「ジョージ浅倉の息子」の番外編ということで・・。