ジョーたちが南部長官の葬式に参列している頃、脳科学研究所の一室でキョーコは南部長官の霊魂と対話していた。

「パパ?」
「キョーコかよく来てくれたね」
「あぁ、パパ・・。もう苦しくはない?痛みは?」

「大丈夫だよ。もうすべての苦しみから解放された」
「パパは頑張ったわ。長官に就任した時にすでに覚悟を決めていたわね。私が透視をする前から・・将来きっと命をかけて大きな敵と戦うことになるだろうと予見して相当な戦闘訓練を受けていたんだもの」

 「そう。キョーコには何もかもお見通しだったね。だが、私も途中で気づいたよ」
「え?」
「BC島から脱出して来たあと、君はしばらく口をきかなかった。アレはわざとだっただろう?」
「パパ・・」
「確かにジョー一人を預かり育てるだけで私は手一杯だった。キョーコは病院にいるから助かったと思ったことが何回かあった。そしてお前の能力ちからを知ってからもしかしたらと思っていたのだよ。私に負担をかけまいとしてわざと病気を装ったね、キョーコ」

 キョーコは小さくうなずいた。
そしてこう続けた。
「パパ。パパはもう鷲尾のおじさまと小百合さんのことにわだかまりはないの?」
「キョーコ?」

 「私、気づいていたのよ。ううん。わからなかったの。しばらくの間。ときどき、パパが頭の中でつぶやいていた言葉の意味が。鷲尾のおじさまの言葉でしょう?『君が小百合を置いてケンブリッジへ行かなければ健は君の息子として生まれていただろうな。わはは・・』パパ、もしかしてそれはパパが健のママのことを・・?」

「いや。いいんだ。もう昔のことさ。あの二人にももうすぐ会えるだろうからね」
南部長官は独り言のように語り出した。

 「健太郎は学生でもないのに航空力学の講義の時間になるとどこからともなく現れた。私が教授の娘さんの小百合さんにひそかに思いを寄せているのに気づいた健太郎はまず自分が親しくなって私を紹介してくれた。そして三人でよくいろいろなところへ出かけたものだよ。だが、翌年になって私のところにケンブリッジ大学への留学の話が来てね。健太郎は小百合さんを一緒に連れていくべきだと主張したが、まだ学生の身でそれも教授の娘さんと結婚するなんて考えられないと独りで旅だったのだ。その後、小百合さんは病気になり、健太郎はそれこそ親身になって闘病生活を支えたのだ。『孝三郎が帰って来るまでに元気になるんだ』と言ってね。だが、運命は不思議なものだ。小百合さんは健太郎のおかげで子供が産めるまでに健康が回復したのだから。私ではダメだったろう。だが、そんなことで男同士の友情は壊れやしないよ、キョーコ・・」

「でもパパは結局誰とも結婚しなかった」
「それは健太郎や小百合さんのせいではないよ、わかるだろう?」

 キョーコは慈愛に満ちた美しいオーラに包まれている南部長官をいつくしむようにじっと見つめていた。
「わかったわ、パパ。鷲尾のおじさまとそちらで会ったら・・」
「あぁ。傷つき苦しんでいる健を励ましてやろう、二人でね」

南部長官は生前とほとんど変わりない姿で、口髭に手をやり、話を続けた。

 「キョーコにはわかるね。私の親父のペンダントだ」
「ええ、パパ。アレは『マーカスター』と言って見かけはあまりぱっとしないけれど死者の遺志を注入できるというペンダントです」
「そうか。わたしはあれには何か言葉では言い表せない不思議なものを感じていたのだ」
「パパのお父様も科学者ではあったけれど超常現象にも興味を持たれていてあのペンダントが持つ不思議な力を科学的に分析されようとしていたの。そして詳しいことはわからなかったけれど、このペンダントが世界征服をしようとする者の手に渡ってはならないと感じていらしたようです」
「そうだったのか、あのペンダントは私の父の形見だとばかり思っていたのだが・・」

 「私の本当の父、ベンジャミンも先祖の時代からこれを探していたのです。地球征服を狙う邪悪な組織がペンダントを狙っているかも知れないと心配していました。そしてついにこのペンダントを持っているものがいつか必ずBC島へやってくると透視して私が生まれるとすぐに移民して来たのです。病弱な子供のためといえば怪しまれませんからね」

「できるかね?キョーコ。その・・」
「えぇ。パパの遺志をペンダントに注ぎ込むわ。私の命に替えても」
「い、命・・?危険なのかね?」

キョーコは首を振ると微笑んで答えた。
「パパも健が総裁Zを倒す時に最後のハイパーシュートを使うと思っているのね。私もそう思うわ。宇宙パルスが消滅したその時に彼らがどこにいようとも地上に(かえ)そうというパパの念を込めるわ」
「そうか、ありがとう。キョーコ。あれは私が鴨技師長に預けておいた」
「わかっているわ、パパ。じさまがどこにペンダントを隠してあるかわかります。知られないようにこっそり持ち出してそしてまたこっそりと元に戻しておきます。その時が来たら、じさまがパパの形見として健に渡すでしょう」

「キョーコ、頼んだぞ」
「はい、パパ」



 ISO本部が破壊され、地球滅亡の危機が近づきつつある中、脳科学研究所の職員は皆シェルターへと避難していた。
その後、略奪に遭ったのだろうか研究所の内部は酷く荒らされていて廃屋のようになっていた。
だが、その一室にキョーコはいた。

 鴨技師長のところへこっそりとマーカスターを戻しに行き、たった今帰って来たのだった。
これまでに経験したことのない疲労感がキョーコを襲っていた。
「SVR波除去装置を使えば少しは楽になるかしら?」
そう思ったキョーコは重たい身体を引きずるようにして装置の前にたどり着いた。
だが、そこでキョーコは愕然とした。
SVR波除去装置はみごとに破壊されていたのだった。

キョーコはその前に座り込むと目を閉じて何か小さくつぶやいた。

と、その時だ。
研究所の中へと入って来た者がいた。背の高い男だ。
その男は座り込んでいるキョーコの前で立ち止まると、片膝をついてキョーコの頬にそっと手を当てた。

「ジョー、どうしてここへ?」
灰青色の瞳が一瞬フッと和らいだ。
「へっ、命令違反をしたんでね。宇宙へ飛び出す準備をしている間、頭を冷やして来いと言われたのさ。地球が滅亡するまであと何時間もねえって言うのによ。それに・・」
「それに・・?」
「この前別れるときに『最後に』とか言ってたろ?それが気になっていたんでね」

キョーコは淋しそうに微笑むと
「なんだ。私の声が聞こえたのかと思った」と力無く応えた。

 ジョーがキョーコの顔を覗き込んだ。
「ふっ・・聞こえたぜ。アレは懐かしいBC島のアクセントだった・・『もう一度ジョーに逢わせてください』って言っただろ?」
だが、キョーコからの返事はなかった。そしてよく見るとキョーコはうっすらと青白い光に包まれていた。
「キョーコ、お前一体どうしちまったんだ?」

「・・うっ・・」
キョーコは小さく首を振りながら座り込んだまま後ずさりしてジョーから離れようとした。
「ん?キョーコ。どうした?苦しいのか!?」

「SVR波をね、許容量の100倍以上浴びたの・・」
「な、なんだとぅ?!」
ジョーの眉間に深いしわができる

「・・お、お別れだわ、ジョー・・」
「キョーコ・・?」
「ダメ!近づかないで。私に・・」

 だが、ジョーはキョーコを力強く抱きしめた
「ジョー・・」
「へ、へ、へ、へ・・キョーコ、オレはサイボーグだ。忘れちまったのかい?」
キョーコはジョーの腕の中で小さく吐息を漏らした。

「キョーコ・・どうしてそんな無茶なことを・・」
「パパと約束した最後の仕事をしたの」
「え?」
「健が・・ガッチャマンが最後のハイパーシュートを使う時に宇宙パルスも消え去るということが見えたの。そうしたら南部長官が宇宙パルスが消えた時に科学忍者隊の諸君を地球に戻すことはできないものかというので、パパの念をあるものに込めることにしたのよ・・SVR波をたくさん浴びればできると思った・・成功したわ・・たぶんね・・わ、私がこの世に生まれてきたわけが・・わか・・った・・」
キョーコの言葉はとぎれとぎれになった

「キョーコ、逝くな。逝っちゃいけねぇ・・」
「ジョー・・もっと・・よく顔を・・見せて」
ジョーはキョーコを抱き上げた。
すぐそこにキョーコのエメラルド色の瞳がある。

「おめぇが死んだら、オレも・・」
ジョーのその言葉にキョーコの目が険しくなった。
「ジョー、あなたは生きて・・これから必要になる・・あなたのその胸の中にあるものが・・それに・・」
「それに?」
キョーコは白く細い指先でジョーの顎のラインをそっとなぞった。
「ガッチャ2号・・にみんなで・・乗っている・・のが・・見える・・総裁Zをやっつける・・ために・・ね」

 ジョーのブレスレットが鳴った。
「準備ができたぞ、ジョー。どこにいるんだ?早く来い」
「ちぇ、どこかへ行けと言っていたやつが、今度は早く来いか・・じゃ、南部のお嬢さん、行ってくるぜ」
ジョーはもう一度確かめるようにキョーコの身体を抱きしめた。
「痩せちまったな・・」
そして粗末な簡易ベッドにそっと寝かせた。

「ありがと・・」
キョーコの口唇がそう動いたように思えた。
その口唇にジョーは自分の口唇を重ねた。
「オレが戻ってくるまで、死ぬなよ・・キョーコ・・」

ジョーは低い声でキョーコの耳元にそう囁くと、荒れ果てた研究所を後にした。


 ジョーと入れ替わるようにキョーコの前に小さな男の子の影が現れた。
その子は横たわっているキョーコの顔を覗き込むとそっと声をかけた

「ママ」

 キョーコはうっすらと目をあけるとジョージュニアの姿を見て微笑んだ。
「迎えに来てくれたのね」
ジョージ浅倉の息子は黙ったままうなずくとその小さな手でキョーコの手をとった。

(おわり)



>5/20 9時台 拍手をありがとうございました

>5/21 19時台 拍手をありがとうございました







ジョージ浅倉の息子 OVA 蛇足)



「ママ、ママ」

身体をゆすられて意識を取り戻した。
「え?ここは何処・・」

 今日子はリビングとダイニングの境目に置かれたカウチで目を覚ました。
いつもは白い天井が夕焼けに染まって真っ赤に見える。

小さなころから何度も見る同じような夢・・
これってなんなのかしら・・?

ピンポーン♪
玄関のチャイムが鳴っている。

「ママ、パパの”おかえい”だよ」
「あら、しまった。ちょっとのつもりがこんな時間までお昼寝しちゃったわ」

 白地に黄色いチューリップがデザインされたサロンエプロンをかけなおすと今日子はインターホンの前へ行き、モニターに映っているジョルジョの顔を見て吹きだした。
「パパ、玄関の前でそんな百面相はしないでちょうだい。穣(じょう)がまた真似するでしょう?」
「インターホンで言ったらご近所に聞かれるじゃねぇか、早く開けてくれよ」
今日子がドアのロックを解除すると穣が玄関へ駆けだした。

ジョルジョはイタリア人でF1のレーサーだ。
レースのない日はこうして早々と帰宅して息子の穣と日本式のお風呂に入ることを何よりも楽しみにしている。
今日子は日本人だったが友人が冗談で応募したレースクイーンのコンテストに合格してあれよあれよという間にレーサーの中でも「キュートな笑顔のキョーコ」として評判になっていった。

ある日いつものように今日子が大きな傘を持ってカメラのフラッシュを浴びているとつかつかとジョルジョが来て、いきなり腕をつかむと「やっと会えたね」と声をかけてきた。
イタリア男の典型的な「挨拶」とわかっていたが、この日の今日子は素直に彼のナンパに応じることにした。
灰青色の瞳になぜか懐かしさを覚えたからだ。


「パパ、おかえい~!」
「ただいま~。ジョー、いい子にしてたか?」
上下を麻の生成りのスーツで身を包んだジョルジョは枯葉色の髪をかきあげると玄関で高々と穣を抱き上げた。
「パパ。おヒゲ、痛いぉ~」
 ジャケットの間から見える陽に焼け鍛えられた素肌の胸の前で穣を抱(かか)え直すと、ジョルジョはマシュマロのような息子の頬にキスをすると軽く噛んだ。
同じ灰青色の瞳がそっくりの笑顔で見つめあう。

「ママ、シンダ」
 穣の言葉に風呂場で湯加減をみていた今日子がどきりとする。
だが、「ヒャッ、ヒャッ、ヒャッ・・」と笑うジョルジョの声にほっとする。
「そうかそうか。ママはまた昼寝してたんだな。じゃ、今夜は寝かせないようにするかな?」

 今日子はときどきふと思う。
ジョルジョとは生まれる前から知り合いだったような気がすると・・

(おわり)