キョーコがガッチャマン基地を訪ねた日から随分長い時が過ぎていた。
すぐ帰ると言っていたキョーコだったが、その後再び冷凍睡眠装置の中に入ってしまっていた。


「くそう!・・くそうっ!」
ジョーの全身から怒りのオーラがあふれていた。
「キョーコ!どこへ行きやがった!出て来い!」

ジョーはISOの地下3階へ向かって階段を駆け降りた。
「ここだな」
分厚い扉に付いている2つのドアノブを両手で握りしめると思い切り力を入れてそれを回した。

ガ・・ギリギリッ・・

金属が擦れ合う酷い音がして扉の一部が飴細工のようにグニャリと曲がり隙間があいた。
そして今度はその扉を思い切り蹴った。
一度、二度、三度・・

グゥワ~ン!
ついにその扉が開いた。

「ジョー、やめろ!」
健がジョーのあとを追ってきた。
だが、コンドルが獲物を狙う時のようにジョーの目にはキョーコが眠っている冷凍睡眠装置しか映っていない。

「キョーコ!今日という今日は許さねぇぞ!」
ジョーは強化プラスチック製の睡眠カプセルに掴みかかった。

「やめろ、ジョー。キョーちゃんは長官が死ぬことを知っていたはずだ。・・うわっ!」
ジョーをはがいじめにして止めようとする健だったがだが造作なく振り切られてしまった。

ジョーはカッと目を見開いたまま、再びカプセルに手を掛けた。
「知っていたなら、余計に許せねぇ。こんなところでスヤスヤ眠りやがって!!」
バリバリッ・・!!と大きな音がしてカプセルのふたがこじ開けられた。

シュウシュウと音を立てて白い煙が上がる。
「だめだ、ジョー!急に温度が上がってしまう!」
健が叫んだ時だった。
キョーコの目があいた。

「ジョー、乱暴はやめて・・」
「なんだとぅー!」

ジョーはまだ横になっているキョーコの胸ぐらをつかむと、一気にカプセルから引き出した。
「いや・・」
キョーコの顔が苦悶に歪む。

「てめぇ、南部長官が死ぬのがわかっていながら・・!バカヤロウ!」
ジョーは平手ではあったが、キョーコのその頬を思い切りはたいた。
「あ・・」

キョーコの身体が部屋の隅まで飛んだ。
「う・・」
「キョーちゃん!」
健がキョーコを助け起こした。
が、赤くほほを腫らしたキョーコは気を失っていた。

「ジョー!貴様、自分がサイボーグだっていうことを忘れたのか!?」
健が青く澄んだ、だが怒りのこもった瞳でジョーをにらみ返した。
「く、くそう・・」
ジョーは歯ぎしりをする。

健はキョーコの口元にうっすら付いている血をそっとぬぐいながら落ち着いた口調でつぶやくように言った。
「ジョー、オマエは知らんだろうが、キョーちゃんは悲しみが深くなると能力ちからが暴走してしまうんだ。」
「なに?!」
ジョーの顔色が変わる。
「だからきっと長官が死ぬとわかった時に自らこの装置に入ったんだろう。」
「うっ」
静かな健の物言いにジョーは言葉に詰まる。
「オマエが生死不明な上にジュニアがキョーちゃんの身代わりになって死んだ時もそうだった。あの時は長官がここに入れたんだ。」

冷凍睡眠装置からはまだパチパチと火花が散っていた。
そのショートした黒い煙とカプセルから立ち昇る白い煙が部屋中に広がってきた。

「キ、キョーコ・・。すまなかった。」
ジョーは部屋の隅に横たわっているキョーコに近づこうとした。
が、その前に健が立ちふさがった。

「くっ・・」
「オレが運ぶ」
「なんだと・・?」
健は軽々とキョーコを抱き上げるとジョーをいなしてめちゃくちゃに破壊された出入り口のドアに向かった。
「医務室だ。行くぞ、ジョー。」
煙の向こうにすっくと立つ健はお姫様を抱いた王子のようなシルエットだった。
その姿を見てジョーの胸には嫉妬と後悔の念が強くこみあげてきた。

「くそう!」
空になったカプセルをジョーは思い切り殴りつけた。


 その日の夜、ISO付属病院の廊下を忍び足で歩く影があった。
と、その影はある病室の前で止まり、しばらくそこにとどまっていたが、やがてそのドアをそっと開けた。

「ジョー・・?そろそろ来るころだと思っていたわ。」
独り言のようにキョーコは言うと小さなパイロットランプが点いた。

ジョーはキョーコが横になっているベッドのわきにある丸椅子に腰かけた。
キョーコは顔の上に乗っていた氷嚢を脇へ寄せるとリモコンを"使わずに"ベッドをリクライニングさせて身体を起こした。

「パパと話していたの・・」
「え?南部長官とか?」
キョーコは軽くうなずいて枕の下に手を入れるとそこから小さなロケットペンダントを出した。
「ジョーのお母さまのペンダントよ。ジョーに返すように言っていたわ」
「オレのおふくろの・・?」
「そうよ。忘れちゃった?あの日、波打ち際へ走って行こうとするあなたを一瞬呼び止めて首から外したこのペンダントをあなたの小さなズボンのポケットに入れたのよ。その後パパが見つけて大切にしまっておいたの」

ジョーはキョーコからロケットを受け取ったが握りしめたままだった。
「中を見ないの?」
「知っているさ。思いだしたぜ。中には親父とお袋の写真が入っている。結婚式の時のな」
「お母さま、ご自分の運命をわかっていらしたのね」
ジョーはロケットを握っているこぶしをキョーコの前に突き出した。
「おめぇが持っていてくれ。」
「ジョー・・」
「いま顔を思い出しちまったら戦えねえような気がするんだ」
ジョーはキョーコから顔をそむけるようにして低い声でつぶやいた。

「でも、パパ・・いえ南部長官が・・」
なおも食い下がるキョーコに
「いらねぇといったらいらねぇんだ!」
ジョーはロケットを床にたたきつけた。

それは乾いた音を残して部屋の隅へ転がっていった。
「なにをするの!?」
キョーコはベッドから降りるとロケットを拾い上げた。
「そいつら、ギャラクターだぜ」
ジョーの感情を押し殺したような言葉にキョーコははっとした。
「そう、確かにここに写っている二人はギャラクターだったわ」
「フッ」
キョーコの冷たい言い方にジョーは溜息をもらした。

「でもジュゼッペおじさまは最初ギャラクターとは知らずにこの組織の一員になってしまったのよ」
「なんだって?」
初めて聞く話にジョーはキョーコの横顔をじっと見つめた

「久しぶりに故郷のBC島へ戻って幼なじみのカテリーナおばさまと再会して結婚したの。でも貧乏だったわ。ジュゼッペおじさまは科学者になろうと勉強していたのだけれど、それも上手くいかなかった。カテリーナおばさまのお腹に子供ができたってわかった時に科学者として研究をさせてやるという組織に誘われたの。」
「それがギャラクターだったというわけか」
リクライニングしたベッドに戻ったキョーコは目の前の暗闇をじっと見つめながら話を続ける。

「えぇ。親子三人、何不自由なく暮らせるようにしてやる。だから不老不死の薬を作る研究をするように・・と言われたのよ」
ジョーが投げ捨てたペンダントを今度はキョーコが握りしめていた。キョーコにはペンダントが語りかけているように思えたのだ。

「その不老不死の試薬が3年くらいしてできたわ。それでテストをしたの。瀕死の状態だった人に注射をして元気にしようとするものだったわ。でも・・」
キョーコは顔を両手で覆うと泣き声で続けた
「それは本当に残酷な実験になってしまった・・」
「残酷な?実験!?」
ジョーは眉間にしわを寄せて声をあげた。

「それは注射によって一時的には元気になるのだけれど、薬が切れたら前より症状が悪化して苦しみながら死んでいくという薬になっていたの。どこで配合を間違えたのか予想もしなかった結果におじさまは腰が抜けるほど驚いていたわ。・・もしかしたら不老不死の薬なんて最初から作らせるつもりもなくておじさまをワナにはめるつもりだったのかも知れない。どちらにしても、ついにギャラクターはその本性を現したわ。『実験だったとはいえ、お前はすでにもう人を殺していることを忘れるな。一生この組織から抜け出すことはできない。しかしこれからスパイとして極秘の仕事をしてくれるのなら、こんな素晴らしい薬を作ったお前だ。大幹部として抜擢してやろうじゃないか。』そう言っておじさまのことを意のままに操ろうとしたのよ」

ジョーはずっとキョーコの横顔を見つめていた。
キョーコの瞳が金色に光って見える。

「しばらくの間、それに甘んじていたおじさまだったけれど、ある日ホントワール国でスパイ活動中に偶然知り合った鷲尾のおじさまとお互いの息子の話をしているうちにこのままではいけないと思うようになったの。そこで機会をうかがって薬の製造方法が入っているマイクロフィルムを国際科学技術庁の関係者に・・これはたぶんパパだわ・・渡そうと持ち出したのよ。裏切り者は殺される運命とわかっていながらね・・」

「俺、その薬を知っているぜ」

「ええっ!?」
キョーコはジョーの方を振り向くとその顔をじっと見た。
「まさか・・あのクロスカラコルムで・・」
「あぁ、たぶんな。・・そうか。オレ、親父の薬で一時的だったが元気になったのか。」
ジョーは肩をすくめて腕を組んだ。
あの日の痛みがジョーの脳裏をかすめた。

「そして、カッツェに羽根手裏剣を投げることができたのよね。私、あの日・・ジョーと空港で別れた時に言ったでしょう?カッツェに会ったら羽根手裏剣をお見舞いしてやるようにってね」
「だが、アレははずれたんだ。情けねぇ・・」
「それでよかったのよ、ジョー」
「なんだてぇ?」
「あのあと、あの羽根手裏剣は機械の中へ吸い込まれていって歯車に挟まったわ。そのせいで歯車が外れて装置の中で分子爆弾が爆発したの。装置はメチャクチャに破壊されたわ。そして悪魔のブラックホール作戦は水泡と化したの。カウンターゲージは0002、危機一髪だったわ」

「へ、へ、へ、へっ」
ジョーの顔に不敵な笑みが浮かんでいた。
「キョーコ、俺がおめぇのそんな作り話を信じるとでも思うのかい?」

キョーコは涙をためたエメラルド色の瞳でジョーのその顔を見た。
「作り話なんかじゃないわ。私には見えたんだもの。ジョーが放った羽根手裏剣が地球を救ったのよ。」

キョーコの真剣なまなざしにジョーはもしかしたらそれは本当のことかも知れないと思ったが、にわかに信じられる話しではなかった。
その前の父親の話にしたってでき過ぎているような気がしていたのだ。
そしてキョーコにもジョーの気持ちが伝わっていた。

「信じられないというのなら、それでもいいわ。でも最後にこのことをジョーに話せてよかった。」
キョーコはそう言いながらベッドから降りるとその下から靴を出してはいた。

「私、これから脳科学研究所へ戻りたいの。ガッチャ2号で送ってくれない?」
ペンダントをポケットにしまい、さっさと上着を着るキョーコをぼんやり見ていたジョーだったが、ふと気がついた。
「あぁ、お安いご用さ。だが、明日は長官の葬式だぜ。」
「私行かない」
キョーコはあっさりとそう言った。
「はぁ?」
南部長官が死んで人一倍悲しんでいると思ったキョーコの言葉にジョーは合点がいかなかった。

「パパはあそこには・・お墓にはいないもの。ただ・・」
「ただ?」
キョーコはドアを開けると病室から出て行く。
「エゴボスラーが現れるかも知れない・・」
「あの野郎・・」
右手で作ったこぶしで左の掌をバチン!と打つと、キョーコの後を追ってジョーも廊下へ出て行った。


 ジョーたちが南部長官の葬式に参列している頃、脳科学研究所の一室でキョーコは南部長官の霊魂と対話していた。


(ジョージ浅倉の息子F (後編)へつづく)




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