『パートナー』
               by があわいこ


 ジョーは砂漠の真ん中で巻き上がる風に吹かれるまま身をゆだねていた。

「何にも無くなっちまったな。あの時の賑わいがウソのようだ」
足元の黄色い砂をドライヴィンググローブをしたまますくってみたがあっという間に風に散ってしまった。
「フッ・・」
パンパンと手を打つようにして手袋に残った砂を払うと乗ってきたカスタムカーのシートに再び身を滑り込ませた。


 そのころ、スナックジュンにはジュンと甚平、そして健や竜が集まってクリスマスの飾りつけをしていた。

「もうすぐ開店時間だわ、健。ツリーをもう少し真ん中に出してちょうだい」
ジュンがカウンターの中から指示を出している。
「やれやれ、ここではガッチャマンも形無しじゃのう。ニヒヒヒ・・」
ムッとしている健をよそに竜はにっこり笑顔でリング折り紙を編んでいる。
「ジョーはどこへ行った?」
空色の瞳が甚平に向けられた。
甚平はジュンの隣りでサンドイッチを作っている。
「お墓参りだってさ」
「なんだと?またBC島へ行ったのか!」
健の声にみんなの手が止まる。
「違うよ、兄貴。アフリカだって言っていたよ、確か」
「アフリカ?」
「前に世界カスタムカー耐久ラリーがあっとところだわ」
ジュンがミラーボールの調整をしながら答えた。
「アフリカに知り合いなんかいたかなぁ」
健がそう言うとすかさず竜が突っ込んだ。
「女の子の確率が90パーセント以上じゃのう。ジョーも隅に置けんわ。グヒヒヒ・・」
「でもお墓参りということは亡くなっているのよね」
もっともなジュンの発言にしゅんとした竜は無言で出来上がったリング飾りをジュンに渡した。


 ジョーは思い切りエンジンをふかすと砂漠の真ん中で大きくハンドルを切った。
ギャラクターの動物メカに追われた時のことが鮮やかによみがえる。
二人で命がけの5日間を過ごした。このカスタムカーに乗って・・
灰青色の瞳でぐっと前方を睨むとジョーは手櫛で前髪をかき上げ、あのレースのゴール地点だったところを目指してアクセルを踏んだ。

レースの後、ルシィからギャラクター本部の場所を訊こうとしたホテル&レストランの建物はまだあったが街全体が寂れてしまっていて見る影もなく廃墟と化していた。
しかし、ジョーは躊躇なくその中へと入っていった。
ルシィが壁を突き破って外へ飛び出して行ったのはどのあたりだろう?
レストランだった場所へ行ってみるとすぐにわかった。ジョーはそこから下を覗いてみた。

「するってぇと、あの辺だな」
目星をつけたところへ下りていったジョーは背中のベルトに差していた折り畳み式のスコップを広げ、ザクザクっと砂を掘っていった。

ガチっとスコップの先が何か固いものに当たった。
「ルシィ!?」

金属性の何か部品のようなものだった。
ジョーは時間のたつのも忘れてそのあたりを掘り返し続けた。
そしてとうとう頭部を見つけ出した。
忘れもしない、ジョーが最後に見たルシィの顔だ。
「ルシィ、久しぶりだな。ふっ、ちっとも変っていねぇ・・」

ジョーは『ルシィ』をすべてかき集めると車のナビ席に乗せた。
「ルシィ、懐かしいだろ?おめぇの愛車だぜ。しばらく借りていたが返しに来たぜ。」

 チェックポイントのテントがあった地点へ来ると、まだ残っていた森の中へと進んでジョーは車を止めた。
「このあたりでいいか」
ジョーは『ルシィ』をそっと包み込むようにしてチェッカーフラッグを掛けた。
「メリークリスマス、ルシィ。ここでゆっくり休むんだな。あばよ」

ジョーはルシィのカスタムカーから降り、そのドアをバタンと閉めた。
「さて、ここから歩いて帰ってもいいんだが・・。やっぱり呼ぶとするか」
ジョーはニヤリとすると予め取り付けておいた発煙筒を車の屋根から外して点火した。

しばらくするとヘリの音が聞こえてきた。


 スナックジュンの看板照明は消えていたが、店内はドア越しにまだぼんやりと灯りが点いているのがわかる。
(甚平がいれば何か飯にあり付けるだろう。流石の俺もヘリをチャーターしたらオケラだぜ)
ジョーはそう思いながら入り口のドアを押し開けた。薄暗くて中の様子がわからない。
「誰もいねぇのかー?」

甚平がカウンターの向こうから首だけを出した。
「あれ?ジョーの兄貴。今ごろ来たってクリスマスパーティーはとっくに終わっちゃったよ」
「腹が減っているんだ。何か残り物はねぇか?」
「竜と兄貴がいて何か残っていると思う?」
ため息まじりに甚平が答えた。
「そりゃそうだな」
あきらめて店を出ようとしたその時だった。

「お帰りなさい、ジョー。メリークリスマス!」
店の明かりが全部点いたかと思うとジュンがクラッカーを鳴らした。
ジュンだけではない。健も竜もクラッカーを打ち上げた。

「な、なんだよ。おまえら!」
「そろそろ帰ってくるころだと思ってな」
健がいつものように冷静に答えた。
甚平がカウンターの下からケーキとチキンのから揚げを出すと、ジュンがコーラを注ぐ。
「さ、みんな揃ったところで始めましょう!」
「あれ?ジョーが泣いているぞい」
「ばかやろう、急に明るくするからまぶしいだけじゃねぇか。くそう」

目をこすりながらジョーは気づいた。
「何で帰って来るってわかった?健」
健が答える前にジュンが紙切れをつまんで出した。それにはこう印刷されていた。

『請求書/ヘリコプター・チャーターのことならアメリス・スカイフライト/ご利用時間・・』

そうだった。ジョーは住所不定なのでスナックジュンを住所の欄に記入したのだった。
「ちぇ、俺としたことが」

 笑いに包まれたスナックジュンで皆はつかの間の穏やかな時間を過ごした。
いつの日かギャラクターを殲滅させ、世界に平和が訪れることを祈って・・

メリークリスマス!


(おわり)